「おもしろロマンス言語学入門」 ~フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語を比較しながら学ぼう~」
私は、「ロマンス言語学・超入門セミナー」というのをときどき開催してきましたが、共著者の安井君はこのセミナーを3回も受講したほか、3回の海外セミナーにも押しかけてきて私のロマンス言語学ネタについてすっかり習得されました。もっとも、彼は大酒豪なので、海外ではワインをがぶがぶ飲んでいる姿しか思い浮かばないのですが、密かに勉強していたようです。
その安井君が、今から2~3年前でしょうか、「先生の講義をまとめたので使ってください」と図表やパラダイム表をきれいに編集したハンドアウトを持参してくれました。そのとき、ああ、これに肉付けすればすぐ本になるな、と思ったのですが、結局執筆に着手したのは、今年のゴールデン・ウィークになってからでした。ここ1年ぐらいは英語の本ばかり書いていたので、久々に専門のロマンス系言語の本ということで、書き始めたら、私自身面白くて、後から後から、あれも書いておきたい、これも書いておきたいと、収拾がつかなくなってしまいました。そこで、「複数言語習得に役立つ知識を提供する」という方針を決め、次のような原則に従って原稿を整理することにしました。
1) 音声学的な分野については、専門用語の使用を避け、体系的には扱わない。
2) フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語と英語の5言語を中心に比較しながら書き進める。
3) ルーマニア語など他のマイナー言語は特に面白い部分を除いて最小限の記述にとどめる。
4) なるべく例文や図表を使ってわかりやすく説明する。
本書をきっかけに、少しでも多くの方がロマンス諸語の興味をもつようになってくださること、また英語やその他の欧州言語の習得に役立ててくださることを願ってやみません。
*******************************************************************************************
<目次>
序章
1. ロマンス語とは ラ・スペツィア=リミニ線 ロマンス諸語系統図
2. 文字 ラテン文字の歴史的変遷
【息抜きコラム 1】 マイナー言語の数詞
3. 基本フレーズ あいさつ言葉
4. 数詞 基数詞 助数詞
5. 時の表現 曜日名 季節名 月名
第1章 語彙
1. 外来語
2. 語源と造語法 数詞から出た接頭辞の例 主要な接頭辞の例
3. 語形変化 【息抜きコラム 2】 ラテン語の第3格変名詞
4. イタリア語の語形変化
Lの母音化、同化、t > z の変化、ドイツ語からの語彙
5. フランス語の語形変化
S 音の脱落、Lの母音化、ch > ch の変化、ゲルマン語起源の語
6. スペイン語の語形変化
同化、f > h の変化、子音の有声化、二重母音化、アラビア語からの借用語
7. ポルトガル語の語形変化
L とRの混同、ll と ch、ct と it、単母音の保持、-ao に終わる語の複数形
第2章 名詞とその修飾語
1. 名詞
A.名詞の複数形の成立 ロマンス諸語における格の融合
B.性 同根語彙の主な接頭辞 樹木と果実 イタリア語の性転換名詞 過去分詞形による抽象名詞の派生
ラテン語 -tatis に由来する女性名詞
2. 形容詞
A. 形容詞の位置 B. 比較級と最上級 C. 副詞の相対最上級 D. 比較の範囲を表わす前置詞
3. 所有形容詞
4. 冠詞
A.冠詞とは何か B.所有形容詞と冠詞の共起 C.代名詞的用法 D.縮約冠詞(または冠詞前置詞)
E.部分冠詞 F.フランス語の有音のH G.最上級形容詞の冠詞の反復 H.ルーマニア語の後置冠詞
5. 人称代名詞 2人称代名詞の敬称
6. 指示詞
7. 疑問詞
A. 疑問代名詞 B. 疑問形容詞 C. 疑問副詞
8. 関係詞
【息抜きコラム 3】 強調の接頭辞 de-
9. 副詞的代名詞
第3章 動詞(1) 基本動詞
1. ロマンス諸語の動詞 総論
2. 規則動詞 直説法現在の活用語尾
【息抜きコラム4】マイナー言語のbe動詞
3. 繋辞動詞 ETRE の謎
4. 存在動詞構文
5. 所有動詞
6. 「行く」と「来る」 日本語との意味範囲のずれ
第4章 動詞(2) 時制
1. 現在完了(近過去または複合過去) 助動詞に be 動詞をとる一部の自動詞
2. 完了過去(遠過去、完全過去、単純過去
【息抜きコラム 5】 マイナー言語のhave動詞
3. 不完了過去(半過去、不完全過去)
4. 未来 未来形生成のいろいろなパターン 【
息抜きコラム 6】 寄生音
5. 接続法現在
6. スペイン語の2つの接続法過去とポルトガル語の大過去
7. 条件法現在(または直説法過去未来)
【息抜きコラム7】 イタリア語の群動詞
8. 分詞とジェルンディオ(または現在分詞)
第5章 カテゴリーと統辞
1. 文法的カテゴリー
A. 人称 B. 数 C. 性 D. 時制 E. 相(アスペクト) 80. 態 G. 法
2. 統辞
A. 文の語順
B. その他の語彙の統辞
a. 代名詞の位置 b. 二重前置詞 c. 過去分詞の一致 d. ポルトガル語の人称不定法
e. 副詞をつくる接尾辞 -mente f. イタリア語の特異な統辞
主要参考文献 【付録】キーボード あとがき