今回は、英語のみならず、他の言語にも応用できる内容にです。
英文法では flat adverb(単純形副詞)について
昔、エルヴィス・プレスリーが歌っていたと思うのですが、Love me tender. という歌がありました。そのときふと考えたのは、どうして Love me tenderly.でないのだろうということでした。
実はこれ、英文法では flat adverb(単純形副詞)と言われているもので、この文法用語でネット検索してもらえれば、英語学者の先生方はあれこれ解説していると思うので、気になる方はそちらをじっくり読んでみてください。
形容詞の副詞への転用は欧州言語だけでなく、日本語でもある
その後、フランス語、イタリア語、ドイツ語などを勉強した私は、同様の現象がこれらの欧州語にあることに気づき、さらに日本語にも同じ現象があるということに気づきました。一言でいれば、これは「形容詞の副詞への転用」なのです。これは、日本語で言えば、形容詞の連体形(=終止形)の連用形への転用ということになります。
すぐ思い出すのは「すごい」です。現代の分かり子は「あの人、すごいきれい~」という言い方をします。規範としては「すごく」でなければならないところが「すごい」になっています。他の例としては「おっそろしい」「ひどい」のほか、関西の方々は「えらい」もこのような使い方をするような気がします。
フランス語・イタリア語での形容詞の副詞的用法について
フランス語の文法では、これを「形容詞の副詞的用法」として教えます。
cou^ter cher(= cost dear) 高くつく
parler haut(= speak high) 大声で話す
sentir bon(= smell good) よい香りがする
など、結構あります。因みに、この最後の例は、フランス語と兄弟のイタリア語では形容詞ではなく副詞を使って sentire bene と言います。形容詞と副詞の揺れを感じます。
イタリア語では「彼女はその町で静かに暮らしている」というのを、次のような二つの言い方が可能です。(括弧内は英語の逐次訳)
Lei vive tranquilla nella citta`.(= She lives quiet in the city.)
Lei vive tranquillamente nella citta`.(= She lives quietly in the city.)
実は、この用法の理解を確かめるべく、私は作文の問題に入れているのですが、案の定正答率は低く10%以下です。
これに類似した英文の例はさがしてみると結構あります。下記は、形容詞でも副詞でも言える例です。
He died happy / happily.
He arrived safe / safely.
He stood silent / silently.
He slept very sound / soundly.
The rose smells sweet / sweetly.
ドイツ語やオランダ語でも形容詞は副詞に転用できる
このように、フランス語やイタリア語にも「形容詞<>副詞の揺れ」を観察できた私でしたが、ドイツ語、オランダ語を勉強してびっくりしたのは、これらの言語では(従って、古い英語でも)、「形容詞はそのまま副詞に転用できる」という事実でした。
そうです、Love me tender. は単なる古い英語の語法の名残りに過ぎなかったのです。
英文法ではくだけた口語として説明されることが多い
現代英文法では、flat adverb は「くだけた口語、俗語的表現」などと説明されることが多いのですが、単に、形容詞が副詞として転用されている、ということでよいのではないでしょうか。この現象ばかりでなく、米語には古い英語の語法がたくさん観察されます。仮定法現在を好んで使用するのもその一例です。
Love me tender 型の表現をさがしてもると、Take it easy. / Go slow. / Land
safe. / Sit tight./ Work regular. / pretty cold. / real bad. / mighty
hungry. など、結構見つかります。
フランス語が入る前のOld Englishの時代に存在していた英語の形容詞は、副詞としても用いていた
英語で –ly をつけることによって、形容詞から副詞として独立させる必要性を感じたのは、中世以来フランス語が英語に混入してきて、フランス語の –ment の影響で-ly を盛んにつけるようになったのだと考えられます。とすれば、フランス語が入る前の Old English の時代から存在した古い基本的な形容詞は、昔はそのままの形で副詞としても用いていたはずなのですから、今日でも副詞として用法が残っているのも当然と言えます。例えば、long とか wide といった語を辞書で引いてみてください。形容詞とともに副詞の項目もあるはずです。