英語・ドイツ・オランダ語の単語の語感の磨き方:ゲルマン語の性質 アプラウト(母音交替)を意識しよう

 ポリグロット(多言語習得)をする際に必要なのは、語感を磨くことです。

語感を磨くためにAblaut/ アプラウト(母音交替)を意識しよう

英語の属するゲルマン系言語の面白い性質のひとつに、という現象があります。これは、ある語の中の母音を変化させることによって、別の単語を派生させる現象です。本来ドイツ語の言語学用語ですが、同時にれっきとした英単語で、 ちゃんと辞書に載っています(ただし、名詞を大文字で書き起こすドイツ語とは異なり、英語では小文字で書き起こします)。

今回はドイツ語を例に解説しますが、オランダ語など他のゲルマン系言語でも考え方は同じです。

ab-は「分離」を示すドイツ語の接頭辞で、語源的に英語の offに対応します。 -laut の部分はもともと「音」の意味で、こちらは英単語の loud に対 応します。はなから何やら難しいことを書きましたが、今回の話はとっても面白いのですよ。

ただ単語を丸暗記する方は、伸びない

英語をお教えしていて感じるのですが、日本の英語教育の欠陥 のひとつに、単語をやみくもに丸暗記させる、というのがあります。個々の単語を少し立ち止まってじっくり味わってやる、ということをしないのです。単語には、いろいろ素性があって、それぞれに味わいがあるものです。ところが英語学習者は、どんな単語でもすぐイコールで結びたがります。

 例えば、dog は「犬」で、はいおしまい、というわけで、もう完璧に暗記したと思っています。こういう単語の覚え方をする人はなかなか 翻訳を勉強しても力が伸びないのです。辞書をじっくり読んで、英語のdogって変な熟語句を作るんだな~、などと観察をしない人は、「語感が鋭く」なりません。そう、今回のテーマは、「単語を増やす」 というよりは、この「語感を磨く」ひとつの方法です。アプラウトはそれと大いに関係があるのです。

英語のdogは、哀れな犬だった

せっかく引き合いに出したので、dog について話しますと、「犬」 はドイツ語では Hundといいます。ダックスフントの「フント」です。オランダ語では hond、デンマーク語では hund です。なぜ英語だけ他のゲルマン系言語と異なるのでしょう。フランス語、イタリア語、スペイン語ではそれぞれ chiencaneperro ですので、これらの言語からの移入語でもありませんね。実は、dog は中世の英国で盛んだった闘犬に使われる「哀れな犬」を意味した語で、それが本来の語 hound (これは現在、スヌーピーみたいなタイプの猟犬を指すようです。そういえば、昔「ハウンド・ドッグ」というバンドがあったような気が)にと って代わったのです。ですので、英語の dog には「惨めな」というイメージがつきまとっているのです。このことを踏まえて、辞書でdogの項目をもう一度読んでみてください。じ~んと何か伝わってきます。

ドイツ語で見られる自動詞・他動詞の交替について

 さて、ここからが肝心です。ドイツ語に頻繁に見られる「自動詞VS 他動詞」の交替の例を見てみましょう。sitzen(すわる)VS setzen(すわらせる>置く)、liegen(横たわる)VS legen(横たえる)、fahren(乗り物で行く)VS führen(運ぶ)などがそうした例です。当然、昔の英語にもこういう現象がたくさん見られましたが、英語は中世期に夥しい数のフランス語を移入したため、このようにきれいな対立をもつペアは少なくなってしまいました。それでも、最初の2つの例はsitset lielayであることはすぐおわかりでしょう。riseraiseもその例です ね。これらを専門家は「姉妹動詞」などと呼んでいますが、この現象 がまさにアプラウトです。

 皆さん、南ドイツの「黒い森」って知っていますか。ドイツ語で Schwarzwaldといいます。schwarz はドイツ語の形容詞で「黒い」という意味です。ドイツの安ワインに Schwarze Katz(黒い猫)というの があって、よく酒屋に並んでいます。また、バイオリン製作で、イタリアのクレモナと並び称されるチロルのミッテンヴァルトMittenwaldは「真ん中の森」というわけですね。中森明菜は「アッキーナ・ミッテンヴァルト」と改名したら運がよくなるかも。私は、先日この Wald(森)を見て、ふとこれは英語の wildと関係があるのではなかろうかと思って、 調べたらそうでした。ついでに wold(荒野)という英単語があることも知りました。おわかりですね、これもアプラウトです。

 なぜ「ふとそう思ったか」というと、ラテン系言語でも「森=野蛮な、 荒れた」というイメージがあるからです。イタリア語で「(大きな)森」 のことを selvaといい、この形容詞形は selvaggio(野生の)といいます。このselvaggioはフランス語ではsauvageという語形になっています。そう、女性なら「ソヴァージュ」という髪型、知っていますね。年配 の方ならカトリーヌ・ソヴァージュという歌手をご存じでしょう。

今回はアプラウトに注目すると、単語同士の意味やイメージのつながりがはっきり見えて、語感が鋭くなるというお話でした。

 最後に、ひとつ次回までの宿題。blondblendblindという3つの 英単語は母音の部分だけが異なっています。果たして同じファミリーの語なのでしょうか。出題しているんだから、「違います」じゃ洒落になりませんね。実際そうなのですが、一体ご先祖様の単語がどういう意味の語だったら、この3語、それぞれの意味を持つに至りうるか推察できますか。皆さんの想像力を試してみてください。

 

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