例によって、下記のカタカナ語の綴りをちゃんと書けるかどうか試してください。そして、その単語についてもっているイメージや背景を考えたことがあるか、考えてみてください。
1)ギャラント(様式)
2)アムネスティ
3)オプション・オプショナル
4)ドラゴン
5)モバイル・モビール
6)アンモニア
7)ギャラリー
8)トレード
9)カスタマー・カスタマイズ
10)スマート(な)
- 語学プロのための単語増幅術 解説
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1) gallant
いかにもフランス語的な響きのする語ですが、-ant の語尾からわかるように、元は古い
フランス語の動詞 galer(楽しむ)の現在分詞です。イタリア語から入った「ガラ」 gala
(祝祭)も同じルーツです。さて、このメルマガの読者ならもう ga- で始まる語がしばしば
ゲルマン語の wa- で始まる語に対応するのはご存知でしょう。この単語もそうで、古高
ドイツ語の wallan(巡礼に行く)という語と古い時代に遡ると同系の語なのです。この単語
は現代ドイツ語では wallen となっていまして、英語の walk もこれが変形したものだと
思われます。
2) amnesty
今や人権擁護団体の名称として名高い単語ですが、本来は法律用語で「大赦」を意味する
語です。古くは「見逃すこと(overlooking)」の意味でした。ルーツを辿ると、フランス語、
ラテン語、ギリシャ語にたどり着きます。ギリシャ語 amnestia は「忘れること」を意味します。
mnasthai(覚える)という動詞の過去分詞に、否定の a- がついたものがその語源です。
3) option / optional
すっかり日本語化しているこの単語は、ラテン語の動詞 optare(選ぶ)からの派生形です。
英語としても opt という動詞、その形容詞形で文法用語の optative(願望法)が辞書に
載っています。これに接頭辞 ad- をつけると、よく知られた動詞 adopt(採用する、養子に
する)になります。
4) dragon
ドラゴンといえば「竜または龍」と覚えている人が多いと思いますが、西洋の「竜」は日本
(または中国)のそれとはだいぶ違います。キリスト教国では聖ゲオルギウスという聖人が
人気がありまして、宗教画の画題として多くの巨匠によって描かれていますので、美術館
などに行ったらよく「龍」を見てみてください。英語では、古くは大蛇の意味もありました。
また、こわいおば様のような方も dragonというので覚えておきましょう。さて、この単語の
ルーツは意外にもギリシャ語 drakon で、その意味は「見ること」です。蛇は見るに値する
鋭い姿かたちをしていることからそのように命名されました。
5) mobile
この単語はいくつかの発音がありまして、無理にカナで書くと「モウベル」、「モビール」、
「モバイル」などと発音されます。2番目の発音は「動く彫刻」の意味で、美術の時間に
習いましたね。3番目の発音は言うまでもなく携帯電話の意味で一気に普及しました。
ラテン語の動詞 movere(動く)に可能を表わす接尾辞 -bilis がついたものがその語源
ですので、英語の move, mobility, mobilize, motion などはこの単語のファミリーです。
6) ammonia
エジプトの太陽神 Amen をローマ式に読みますと Ammon になりますが、その神殿が
リビアにありまして、その周辺で産出する塩とゴムの樹脂でできることから、ラテン語で
「アモンの塩」 sal ammoniac と名前がついたのです。化学物質のアンモニウム
ammonium はその中性形です。
7) gallery
ギャラリーというと普通は「画廊」を思い出すでしょうか。昨今はゴルフの見物人のこと
を指しても使われるようです。この単語は冒頭の gallant と関係がなく、ギリシャ語で
「材木」を意味する kalon という語に由来します。材木を組み合わせた建物というわけ
ですが、やがて回廊を意味するようになり、中世には回廊によく絵をかけたことから
美術館、画廊といった意味が出るに至りました。
8) trade
カタカナ語としての「トレード」は、スポーツ選手の交換のイメージが強いですが、ご存知
の通り、普通はビジネス的な売買の意味ですね。この単語の由来は低地ドイツ語で、
従って英語においては大和言葉ということになります。原義は「踏むべきもの」つまり
「道」の意味と聞けば、もう tread の変形とお分かりでしょう。「道」から「商い」の意味に
転化するのはわかるような気がしませんか。
9)customer / customize
custom が「習慣」、customs が「税関」、customer が「顧客」と、一体ルーツがどのような
意味だったらこのように意味が分化するのだろうと思って調べてみました。ラテン語で
分析すると con(共に、の意味の接頭辞) + suus(自分自身の、の意味の所有形容詞)
+ min(名詞の語尾)ということで、つまりは「自分自身のもの」という意味でした。ここから
「癖」の意味が派生し、確立された社会的慣わしの意味で使われるようになります。
そして「慣例」>「関税」の意味が、さらに「商店などに対する愛顧、ひいき」の意味を
もつように至ったのです。
10) smart
昔 I have a smart arm という表現を聞いてどういう意味かと思ったら「ひりひりする、
うずく」という意味があったのでびっくりしました。しかし、同時にドイツ語の schmerzen
(痛み)と同源であることを知り、感動しました。「ひりひり」>「きびきび」>「颯爽とした」
というファンタジーも沸きましたしね。その後、専門の辞書で調べたところ、印欧祖語に
まで遡ると、-mart の部分がラテン語 mordere(噛む)と同系であることがわかりました。
こちらのほうは、フランス語を経由して mordant(辛らつな)、mordacious(噛みつきぐせ
のある)といった語が英語になっています。ピアノでバッハを弾いたことのある人なら
モルデント mordent という装飾音をご存知でしょう。確かに「噛み付く」感じです。