おもしろ音声学「寄生音」について

 

「おもしろ音声学」のセミナーに来られた方から、セミナー後にメールで質問をいただきましたので、お答えをご紹介させていただきます。

 

ご質問: イタリア語- > フランス語に入るbの音について

音声学のセミナー、大変面白く(可笑しく)拝聴しました。小生は、仏、伊、西語を勉強しいるものですが、イタリア語のいくつかの単語が、フランス語では b の音が入っていることに気づきました。camera > chambre,  numero > nombre のような例です。これには何か法則があるのでしょうか。

 

回答: 寄生音という現象について

Nさんがお尋ねの件は、音声学のほうで「寄生音」と呼ばれている現象です。ずっと以前に書いた原稿がありますので、少し手直ししてご紹介します。

 

実は私は言語学を勉強し始めた頃、音声学に興味をもてませんでした。大学で音声学を教わった竹林滋教授の授業に啓発されて、(今でも得意な分野ではありませんが)興味をもてるようになりました。

 

私もあるとき、Nさんが疑問に感じられたことに気づきました。フランス語、スペイン語を学習された方のなかで、venir の未来形がそれぞれ viendrai, vendre と -d- の音が出てくるのを不審に思った方はありませんか。私も最初(しかも2つの言語で同じように)何かあるに違いないと思いました。

 

この答えを見出したのは、マルチネという音声学者の本の「結合言語学」という部分を読んでいて、この「寄生音」の項目を見つけたときでした。

 

結論から言うとこの現象の定義は、「n, m の音の後に r が連続するとき、しばしば寄生音 -d-, -b- が出る」というものです。なぜかというと、n と d、m と b はそれぞれ調音の仕方が同じで、違いは鼻腔に抜ける通路を開けるか閉めるかだけのことなので、r の音に移行するときちょっとタイミングがずれると d, b の音が出てしまうからです。

フランスでは中世の時代に寄生音の入った単語が形成された

こうした現象により、中世の時代に、フランス語では寄生音の入った形の単語が形成されました。こうした例を、イタリア語、フランス語(現代)、英語の単語で比べて探してみましょう。

英語は、中世にフランス語の変化した方の語形を輸入したため、フランス語に似た形をしています。

 

イタリア語     フランス語    英語

camera部屋            chambre           chamber

numero               nombre              number

cenere                 cendre                cinder

tenero(優しい)           tendre               tender

 

動詞 venir や tenir/tener の未来形に d の音が入ってくるのはこうした現象によるものと考えられます。

 

同じ音声学の現象が、実は日本語でも見出される

さて、これに似た現象は日本語でも見出されます。特に、b と m の混在が認められます。

例えば「サムイ」と「サブイ」、「サミシイ」と「サビシイ」などの例は、探すと他にもあるのではないでしょうか。「三浪」は「サンロウ」ですが、「三郎」は「サブロウ」と読みますし、九九で3X6=18は「サブロク…..」と読みますね。これは音声的は私達が samro, samroku と読んでいるからです。

 

そういえば、私が子供の頃、あるインドの大都市は地図帳に「ボンベイ」と書いてありますが、現在では「ムンバ1」と記してありました。このように、m と b は音声的に近いので、ミクロネシアの言語などで b の発音をしない習慣の言語使用者は、英語の b を m の音で代用している例がたくさんあります。ビルマがいつのまにかミャンマーになったのも同じことです。 

 

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